コラム04 創業者の自社株を法定相続分通りに相続した結果、社長が解雇された

◆創業者の自社株を法定相続分通りに相続した結果、社長が解雇された

 石油販売を業とするA社のケースです。

 創業者である代表取締役会長が死亡したことによって、
 会長の妻と、社長である長男、専務の次男の3人が
 会長が保有していたA社の株を相続することになりました。

 会長の死亡時、A社の株は会長が90%、
 長男(社長)が10%保有していました。

 そして、会長の死亡によって、会長が保有していた90%の株を、
 法定相続割合に応じて、妻が2分の1(45%)、
 2人の兄弟が4分の1(22.5%)ずつ相続。

 その結果、A社の株は次の比率になりました。

 ・会長の妻   45%
 ・長男(社長) 32.5%(10%+22.5%)
 ・次男(専務) 22.5%

 ところが、この自社株の相続が、
 A社にとっての悲劇の始まりとなったのです。

 それまでは、家族3人仲が良かったのですが、
 あるときを境に、会長の妻と長男との折り合いが悪くなりました。

 そして、会長の妻は次男と共謀して臨時株主総会を開き、
 特別決議によって社長である長男を解任してしまったのです。

 会長の妻が持つ45%の株と、次男の22.5%を足すと67.5%となり、
 3分の2を超えるため、特別決議を支配されてしまったというわけです。

 まさに、自社株対策を何もしていなかったことが招いた
 悲劇と言ってもいいでしょう。

 では、こんな事態にならないためには、
 会長はどんな対策を講じておけばよかったのでしょうか?

 それは、会長が生前に、長男(社長)に株をすべて譲渡しておくか、
 遺言を作成しておき、長男(社長)に3分の2以上の
 自社株が渡るようにしておくべきだったのです。
 
 遺言がないと法的には、自動的に株は配分され、
 このような悲劇がおこることもあります。


コラム03 ある日、いきなり、株をめぐるトラブルがやってくる

 社長が生前に、自分の兄弟に自社株を渡すことがよくあります。

 ところが、2代目社長の息子がおじさんやおばさんから、
 株の買い取り請求をされると、会社は高額な値段で
 買い取らなければいけなくなり、大量の資金が必要になります。

 さらに、自社で株を買い取る場合、
 最初の人から高額な値段で買い取ってしまうと、
 ほかの人から株の買い取り請求があったら、
 同じ値段で買い取らなければいけないことになるのです。

 また、仲の良い友人と株を50%ずつ持って共同経営していた場合、
 仲の良いうちはいいのですが、仲が悪くなってしまうと、
 会社では何も決められなくなってしまいます。

 実際、共同経営者の一人が裁判所に解散請求の訴えを起こしたところ、
 裁判所が会社の解散命令を出したケースもありました。

 このように、自社株の取り扱いは、
 一歩間違うと、会社の存続を脅かす問題に発展するのです。

 これらは、ほんの一例です。

 自社株に関しては、キャリアの長い社長でも
 知らない落とし穴がたくさんあります。

 私は自社株の専門家として、銀行と証券会社勤務の30年間の間に、
 さまざまなトラブルを見聞きし、そして自分でも解決に乗り出したり
 コンサルティングをしたりしてきました。

 その中でわかったことは、
 自社株をめぐる問題は、ある日突然、あなたを襲うということです。

 ですので、他人事ではなく自分事として、
 未来のことではなく今の現実の問題として、
 自社株の怖さを学んでほしいと思います。


コラム02 社長が亡くなれば、株は必ず、分散する

 あなたは自分の会社の株のことについて、どれだけ知っていますか?

 じつは、社長の多くは、自社株のことについて何も知りません。

 特に、上場していない会社の社長については、
 自社株のことなど気にしていない人が
 ほとんどだと言っても過言ではないでしょう。

 しかし、社長が自社株のことを知らないと、
 大変なことになってしまいます。

 いつのまにか経営権が他人の手に渡っていて、
 社長をクビにされてしまうことだってあるのです。

 私たちは通常、株式の50%プラス1株を持っていれば、
 会社経営は安泰だと思っていますが、それは大きな間違いです。

 確かに、過半数の株を持っていれば、
 取締役や監査役の選任といった通常決議を支配することはできます。

 しかし、取締役の解任や会社の合併といった特別決議を支配するには、
 過半数では足りず、3分の2以上の株が必要なのです。

 また、社長が亡くなると、社長の座は自動的に副社長に引き継がれると
 思っている人もいるようですが、そんなことはありません。

 社長が亡くなると、社長が持っていた自社株は
 社長の妻と子供たちに財産という形で引き継がれるので、
 そこで経営権をめぐる争いが起こることがあるのです。

 たとえば、法定相続分どおり、
 妻が50%、2人の子供が25%ずつ相続した場合、
 妻は、長男もしくは次男のどちらかと結託することで、
 相手を解任することも、相手の株を強制的に買い取ることもできるのです。

 したがって、社長は自分が自社株を100%
 持っているからといって、安心していてはいけません。

 何の対策もしていなければ、社長が亡くなったあと、
 必ず、会社の株は分散してしまうのです。

 また、自社株の値段が高額になっていた場合、
 遺族が納める莫大な相続税を、会社が負担をするケースも多く、
 そのために大量の資金が流出し、会社の経営が厳しくなることもあります

資本戦略研究所 田儀雅芳