コラム27 すでに分散した自社株の整理法

自社株の分散を防ぐ方法と分散した自社株の整理法として、「すでに分散した自社株の整理法」についてお話します。

株主から強制的に株式を取得する5つの方法

分散した自社株を整理する方法として、定款による売渡請求権の他に、株主から自社株を強制的に買取ることができる方法もあります。

①金銭交付合併
②金銭交付株式交換
③全部取得条項付種類株式
④株式併合
⑤特別支配株主の株式等売渡請求

このうち①と②については、従来、非適格再絹に該当し、会社資産の時価評価がされたため、実施されることはほとんどありませんでした。

しかし、2017年の税制改正によって、合併の場合には、存続会社が合併前に消滅会社の株式を、株式交換の場合には、親会社が交換前に子会社の株式を、3分の2以上保有している場合には、残りの株主に対し金銭を交付しても、非適格再編に該当しないことになりましたので、その他の適格条件を満たす場合には活用が期待されます。

適格要件を満たさないと課税される

③と④は、再編により少数株主の持株を端株にした後に自己株式として買取る方法で、⑤は90%以上の議決権を保有する単独株主(特別支配株主)が直接、少数株主から強制買取する方法で、いずれも再編税制の対象外でした。2017年の税制改正で、取得する側の株主が法人の場合、再編税制の対象となり、適格要件を満たさないと対象会社(株式を取得される側)の資産の時価課税がされることになりました。したがって、同族関係者で過半数の持株を確保している場合、次の適格要件を満たすことが求められます。

・従業者引継要件……勤務実態のある役員、社員の概ね80%が引き継がれる。

・事業継綬要件……主要な事業が継続されること。

なお、①②③④は株主総会の特別決議が必要ですが、⑤は対象会社の取締役会決議のみで取得ができます。

自社株の強制買取の5つの方法

①金銭交付合併

株主総会の特別決議により、合併会社(存続会社)は被合併会社(消滅会社)の株主に対して、対価として合併会社(存続会社)の株式ではなく、金銭を交付することにより少数株主を排除する。

②金銭交付株式交換

株主総会の特別決議により、子会社の株主に対して、対価として親会社の株式ではなく金銭を交付し、少数株主を排除した上で、親会社の100%子会社化する。


③全部取得条項付種類株式

株主総会の特別決議によって、普通株式の全部を取得することができる種類株式に転換後、いったん全部取得し、たとえば100株に対し1株の割合で新たに株式を割当し、50株を0.5株の1株未満の端株にし、強制買取を可能にする。

④株式併合

株主総会の特別決議により、既存の複数の株式を1株に統合することにより、発行済み株式数を減らす方法。たとえば、100株を1株にすると、50株は0.5株となり、1株未満の端株は強制買取が可能となる。

⑤株式等売渡請求

対象会社の総株主の議決権の90%以上を有する株主(特別支配株主)が、対象会社の承認を受けただけで、他の株主(少数株主)が有する対象会社の株式等の全部を強制的に取得できる権利。

自社株の分散を防ぐ方法と分散した自社株の整理法はケースにより様々な対応が考えられます。
ぜひ一度ご相談ください。

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コラム26 持株会社に自社株を譲渡するメリット

持株会社への移動方法は譲渡と株式移転・株式交換

株価が下がる方法として、持株会社を活用するという方法もあります。

本体の会社の株式を法人が間接的に保有することで、その後の株価上昇分の37%(※2020年3月現在)を控除して評価できます。

株式を法人に移せば即座に株価が下がるというわけではありませんが、長期的には個人で直接保有する場合に比べて有利になります。

持株会社はへの自社株の移動方法としては、「譲渡」と「株式移転・株式交換」の2つの方法があります。

譲渡した場合の6つのメリット

譲渡により売却益がある場合には、譲渡所得税20.315%の分離課税がかかりますが、譲渡所得税を負担するので、税務上、安全な方法といえます。自社株は現金資産に置き換わりますので、次の5つのメリットが得られます。

  • 評価が確定する
  • 遺産分割が容易になる
  • オーナーが元気なうちに現金が手に入る
  • 財産権と経営権の両方の承継ができる
  • 永久に控除が受けられる
  • 遺留分算定の対象外

各メリットの詳細についてはお問い合わせいただくか、
「ビジネス図解 非公開会社の自社株のしくみがわかる本」をご覧ください。

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コラム25 M&Aのメリット、デメリット

M&Aの5つのメリット

会社の資金流出が問題になるのは、社長が自社株を後継者に贈与または相続した際、後継者が贈与税または相続税を支払えずに会社が納税資金を負担するケースです。
したがって、後継者がいない場合、このような資金流出の問題は生じないのですが、会社をどうするかという問題が出てきます。
その場合の選択肢は主に次の4つです。

  1. 廃業(解散、業種転換)
  2. M&A(第三者に株式を売却)
  3. MBO(自社の役員に株式を売却)
  4. 株式公開

この中で多くの社長が考えがちなのが廃業ですが、廃業を決める前に検討すべきなのがM&Aです。
M&Aには次の5つのメリットがあります。

  1. 従業員の雇用を守り、顧客を守り、会社を守ることができる
  2. 通常は、社長の連帯保証や担保提供がなくなる
  3. 株式を売却することで、株主は現金収入を得ることができる
  4. 会社の解散により残余財産が株主に配当される場合は配当所得となり、総合課税で最高50%課税されるのに対し、M&Aの場合は株の譲渡益に対する20.315%分離課税だけで済むので税金面で有利
  5. 業績の良い会社は営業権が加算され、高く売れる


M&Aのデメリット

M&Aにもデメリットが2つあります。
1つは秘密が漏洩してしまうと、社員の不安が増大し、退社のリスクが高まるほか、経営不安の噂が流れ、営業不振に陥る可能性があることです。
もう一つは、企業風土が大きく違っていると、従業員のモチベーションが低下するということです。

なおM&Aを行う場合、自社株が分散してしまっていると買収をするほうは嫌がりますので、事前に分散敷いてる株を社長が集めておく必要があるでしょう。

社長の年齢が70歳代であっても42.3%の企業で後継者が未定です。
いざというときに慌てないためにも事前に様々なケースの検討が大切です。
ご相談はお気軽にお問い合わせください。


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コラム24 莫大な相続税が払えない

・会社の資金流出のリスク、莫大な相続税が払えない

実際にあった、2.4億円もの莫大な相続税が発生した悲劇をご紹介しましょう。

美容関係製品の販売会社であるB社は創業30年の会社ですが、10年ほど前から急成長し、自社株の評価額も業績に連動してどんどん上昇していました。

そして社長が死亡する直前期には自社株の相続税評価額は、なんと100倍になっていたのです。

ところが社長も、後継者である長男も、社長の妻も、このような自社株の評価に関する知識は持っていませんでした。これが悲劇のはじまりだったのです。

社長の死後、資産の評価額を計算してみると、なんと自社株の評価額は10億円になっており、これに自宅の評価額が1億円、現預金が1億円あり、相続財産の合計は12億円。

これを社長の妻と長男の二人で相続することになり、相続税は2.4億円。

金銭での一括納付は不可能な状況で、物納や延納も事実上、困難な状況でした。

・相続税を納めるために会社の所有不動産を売却

このような状況の中で、遺族はどうやって相続税を納めたのか?

最初はB社から借りることも検討しましたが、B社に現預金はなく、かつB社は業績悪化により金融機関からの借り入れが難しい状況でした。

そこでB社は所有していた不動産の一部を売却することで現金を捻出。そのお金で遺族が相続した自社株の一部を自己株式として買取り、その代金で遺族が相続税を納めたのです。

このように納税資金を捻出するために会社の資金が流出してしまうことは、会社にとって大きなリスクです。最悪の場合は、会社の存続すら危ぶまれる事態となりかねない重大な問題といえます。

したがって、株式公開していない中小企業の社長は、自社株の評価方法を知り、評価額を把握しておく必要があるといえるでしょう。

(詳しくはお問い合わせ、もしくは「非公開会社の自社株の仕組みがわかる本」をご覧ください)

 

多額の相続税が発生してしまったケース


B社が急成長

自社株の評価額も上昇、額面の100倍に!


相続発生
相続財産:自社株10億円+自宅1億円+現預金1億円=12億円

相続税2.4億円
金銭での一括納付は不可能。物納や延納も困難

相続税を納めるために会社の所有不動産を売却。
売却代金で遺族の自社株の一部を会社が買取る

その代金で遺族が相続税を納める

会社の資金が流出

最悪の場合、会社が危機に!

 

自社株の評価方法を知り、評価額を把握しておくことが必要!
ご相談はお気軽にお問い合わせください。

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コラム23 自社株についての遺言がないと…

・遺言がないと後継者が社長の座を追われることも

遺言を残さず亡くなってしまうと、残された相続人は遺産分割協議を行います。

仮に相続人が配偶者と長男(後継者)と次男の3人で、長男が会社を継ぐケースでは、自社株は長男がすべて相続するのが望ましいといえます。

しかし財産構成上、自社株の割合が高いケースが多いため、自社株すべてを長男に承継させると、長男の取り分が極端に多くなってしまいます。

そこで誰かが法定相続分通りに分けたいと言い出せば、自社株も含めて分割せざるを得なくなります。

 

・遺言があれば分割協議書にハンコは要らない

長男は母親と次男が相続して自社株を、株式分散防止のために自社で買い取らざるを得ないケースも出てきます。

この場合、相続時の株価評価より自社に売却する場合の株価評価額のほうが、高くなるのが一般的です。

さらに、分割協議でもめた場合、協議がまとまるまでの間は共有財産となるため、株主総会の開催が困難になることもあるのです。

自社株すべてを後継者に相続させるという遺言があれば、分割協議書にハンコはいりません。ただし、遺留分侵害額の請求リスクがあるので注意が必要です。
(詳しくはお問い合わせ、もしくは「非公開会社の自社株の仕組みがわかる本」をご覧ください)

 

 

遺言を残さずにオーナー社長が亡くなると…


社長が死亡

遺族間で遺産分割協議を行う


誰かが法定相続分割通りに分けたいと言い出せば、
自社株も含めてその通りに分割せざるを得なくなる

 

例:遺族が配偶者、長男(後継者)、次男の場合、配偶者が2分の1、長男と次男が4分の1ずつ

・長男(後継者)は独断で何も決められなくなるため、経営が不安定になる
・経営権争いに発展する可能性もある
・長男は母親と弟の自社株を買い取らざるを得なくなり、会社の資金が流出する
・分割協議でもめた場合、株主総会の開催が困難になることもある

 

「自社株をすべて後継者に相続させる」という遺言が大事!

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コラム22 生前に譲渡する5つのメリット

・個人に売るか会社に売るかで株価が変わる
生前に後継者に自社株を譲渡する場合、後継者個人に譲渡するか、後継者が支配権を有する会社に譲渡するかによって、株価が変わります。

後継者個人に譲渡する場合に適用されるのは相続税法上の株価で、後継者が支配する会社に譲渡する場合は法人税法上の株価が適用されます。

相続税法上の株価と法人税制上の株価を比較した場合、相続税法上の株価のほうが安くなる傾向がありますので、後継者個人に譲渡したほうが安く売却できることになります。
しかし、後継者に資金負担能力がない場合は、後継者が支配権を有する会社を作り、そこの売却することで個人の負担を軽減することができます。

・譲渡には5つのメリットがある
一方、オーナー社長から見た場合は、後継者個人に譲渡するより、後継者の会社に譲渡したほうが、株価が高いのでお金がたくさん入ってくることになります。
逆にお金はそれほど必要ない場合は、株価が安いので、後継者個人に譲渡したほうがいいといえます。
いずれに譲渡するにせよ、譲渡には次の5つのメリットがあります。

  1. 生前退職金代わりにまとまったお金が入り、社長も続けられる(退職金を取るためには社長を退任する必要あり)
  2. 自社株が現金資産に替わるので、遺産分割が容易になる
  3. 売却代金を将来の相続税の納税資金に充当できる
  4. 将来、株の評価が上昇しても、現金資産の評価は確定している
  5. 売却は原則として遺留分算定の対象外となる

売却代金で不動産を取得すれば、相続財産の評価は50%ほど低下します。また、社長の持株を1株だけ残し、残りすべてを譲渡しても経営権を確保できる方法もあります。

譲渡先別の株価の違い

後継者個人に譲渡 相続税法上の株価を適用 安い
後継者が支配権を
有する会社に譲渡
法人税法上の株価を適用 高い

社長の資金需要から見た売り先の決め方

お金が必要な場合 後継者が支配権を有する会社に譲渡
お金はそれほど必要ない場合 後継者個人に譲渡

 

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コラム21 会社の値段はどうやって決まるのか?

時価純資産+営業権で評価します。
企業価値のうち株主価値を算定するのに最も理論的なのはDCF法(事業から生まれる将来のキャッシュを現在価値に引き直す方法)です。ただし、これは将来の利益計画に恣意性が入りやすく評価が一定しないため、中小企業のM&Aで使用されることは多くありません。そこで、売るほうも買うほうも理解しやすいという点でよく使われるのが「時価純資産+営業権」による算定です。

・時価純資産の評価とは
時価純資産は、すべての資産と負債を実態に合わせ時価で評価し直して算出します。

・営業権の評価とは
営業権は、過去3年間から5年間の平均「税引後利益」をもとに、3~5年分で計算するケースが多く見られます。なお、税引前の利益を使う場合もあります。

企業価値(株主価値)=時価純資産+営業権
・時価純資産=時価総資産-時価総負債
・営業権=税引後利益の数年分

例:時価純資産3億円で、税引後利益が3,000万円の会社の営業権が、税引後利益の3年分の評価になった場合の株式100%の売却価格
3億円+3,000万円×3=3.9億円
このように計算します。

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コラム20 税金対策より重要なのは経営権の承継

相続税はあくまで承継の「コスト」と考えるべき

事業承継というと、相続税対策が一番に挙げられがちですが、実は事業承継で一番大事なことは、後継者に経営権をきちんと承継することです。

相続税はあくまで承継の「コスト」と考えるべきであって、大事なのは後継者が社長の座を引き継いだ後、経営権を失わないようにしておくことなのです。

この経営権の承継をきちんと行わなかったために、後継者が解任されたりするケースが起こっています。

具体的には、次の順番でクリアしていきます。

事業承継でクリアすべき3つのこと

1.議決権のある株式の過半数を確保する
→取締役全員を後継者「単独」で選任・解任ができる
【議決権が50%未満になると…】
→造反取締役が他の株主と結託すると、後継者が取締役を解任されてしまう

2.株式の3分の2の議決権を確保する
→株主総会の特別決議が可能になる(定款変更、組織再編、増減資等の重要事項)
・一部買取等により、議決権の比率を下げる方策を検討する
・後継者単独で3分の2を確保できればよいが、相続税負担大なので、他の株主を親密な関係にする

3.問題株主または将来問題株主になる可能性のある株主への対応
→3分の1超の議決権のある株式を保有している株主は、単独で特別決議を否決できる
・一部買取等により、議決権の比率を下げる方策を検討する
・後継者単独で3分の2を確保できればよいが、相続税負担大なので、他の株主を親密な関係にする

POINT!
社長が元気なうちは、株主構成に問題があっても表面化することは少ない。
代替わり後に表面化するので、早期に見直しをしよう



 


「ビジネス図解 非公開会社の自社株のしくみがわかる本」出版記念オンラインセミナー その1

ビジネス図解 非公開会社の自社株のしくみがわかる本」出版記念オンラインセミナー開催

私は、昭和61年から三和銀行東京本部で事業承継チームを立ち上げ、それ以来現在に至るまで、自社株問題を中心にアドバイスを行って参りましたが、経営の根幹にかかわる会社法に対する理解が圧倒的に不足していることを痛感しました。 経営者の皆様に事業継承、自社株戦略をよりご理解いただき、実際の会社経営に生かしていただくために、この度、「非公開会社の自社株のしくみがわかる本」を出版し、その内容を補足する意味で出版記念オンラインセミナーを開催しました。この動画はオンラインセミナーの1回目を収録した動画です。

今後のオンラインセミナーのスケジュールはこちら

本動画で利用しているレジュメをダウンロードすることができます。

  • 本動画で利用しているレジュメに誤りがあります。謹んでお詫び申し上げます。なお、ダウンロード資料では訂正箇所につきまして赤字で示していますのであわせてご利用ください。
  • 本動画の内容、およびレジュメ等でご質問や不明点があればメールにお問い合わせください。
    <弊社メールアドレス>m.tagi@shihonsenryaku.jp

 

 

 

 


コラム19 会社は誰のものか

私が事業承継のアドバイスを開始したばかりの頃の話です。ある外資系の上場会社で、業績を伸ばしている日本人社長が、突如社長を解雇されてしまったことがありました。株主が会社の株式の過半数を保有していれば自由に社長を解任できるー資本の理論とは冷徹なものだと衝撃を受けたものです。

会社は株主だけでなく、役員、社員、顧客のものだといわれますが、法的には株主の権利が優先されることになります。株主は無担保無利息で会社に出資しているので、会社が倒産すれば出資した株式はただの紙切れになります。そのようなリスクを取って出資している見返りとして、配当を期待すること(利益配当請求権)は当然の権利なのです。

したがって、株主は、株主総会での多数決(過半数の議決権行使)によって、会社に利益をもたらしてくれる人材を取締役として選任し、経営を任せているわけです。逆に、利益をもたらさない取締役は、株主の多数決で解任することになります。

さらに、株主は、定時株主総会での多数決(過半数の賛成)により、会社の最終利益を決定し、税引き後利益から支払う配当金額を決定します。オーナー経営者の場合は、株主と同一なので、過半数の株式を確保している限りは、取締役の選任・解任・配当金額の決定はすべて自分一人でできることになります。